第1章「デスク」

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「それ、きっと思春期に見るタイプの夢だな。」 そう言うと、スマホのゲームをしながら大学2年の兄貴は素っ気なく言う。 「中2になって受験に入る前だから、そんな不安定なもの見るんだよ。  …気にすんな。おまえの他に見た奴なんていないんだろう?」 そうしてゲーム画面に視線を戻す兄貴の前で、俺は三本の指を立てた。 …そう、聞き込みをした結果、俺と同じ悪夢を見た奴が三人いた。 …一人目はB組の吉田。 授業の合間にうたたねをしてしまい、教室が逆さになったところで目が覚めた。 …二人目はF組の横柳。 朝練後、逆さになった机の下から根が出て来たところで目が覚めた。 …そして三人目のE組の坂田が一番ヤバかった。 奴は枝が腰の辺りにまで巻き付き、身動きができなくなったところで目を覚ました。 しかし足首にどこか違和感を感じ、そして靴下をめくったところ見てしまったのだ。 「足首に、枝みたいな、何かが巻き付いたようなあざがあったのか…。」 兄貴はすでにスマホのゲームをやめ、真剣に話に耳を傾けはじめている。 …俺は素直に聞いた。 以前、兄貴が学校にいた時代、似たような噂が無かったかと…。 奇怪な夢を見る生徒はいなかったかと…。 しかし、兄貴は首を横にふると立ち上がった。 「…ないな。何しろお前たちの学校は俺たちがいた頃の学校とは違う。  他の学校を寄せ集めにした統合校だからな、できたての新品。  怪しい話なんてあるほうがおかしいんだ。」 そうして、トイレにでも立ち上がったのかと思ったが、 兄貴はもう一度スマホを手にとり、廊下へと向かう。 「…ちょっと、こころあたりがある。しばらく待ってろ。」 そうしてしばらくすると、廊下でぼそぼそとしゃべる声がした。 どうやら誰かと話しているらしい。 そして、スマホ片手に兄貴が戻って来ると、俺のスマホを出すように言った。 「…いいか、今度の休み、これからメールで送る住所に行ってこい。」 兄貴はそう言うと俺のスマホにメールを送る。 「そこにいる『メンナシ』に話をすれば、何かが分かるかもしれない。」 俺は聞いた。『メンナシ』とは何かと。 そこに行けば何が分かるのかと。 すると、兄貴は笑ってこう言った。 「…まあ、探偵みたいなもんだ。そこから先はお前が調べろ。」 そして、それ以上、兄貴は『メンナシ』について語らなかった…。
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