第1章「デスク」

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駅から徒歩5分の雑居ビル。 その2階にたどりつくと俺はドアの窓ガラスに書かれた 『さかい心療内科』という名前を確認し、横にあるインターホンのチャイムを鳴らす。 『どちらさまですか?』 そこから流れるのは若い男の声だ。 俺はインターホンに向かって、兄の紹介で来た弟の向井惣治ですと名乗った。 『…わかりました。予約されていた方ですね。どうぞお入りください。』 同時にカチャリとロックの開く音がし、俺はノブをひねって中に入る。 …そして、目の前の光景に目をしばたいた。 …そこには、一台のデスク。 ライトのついた事務デスクがあった。 そして、その上には一台のタブレットが置かれ… 画面には『通話中』の文字が大きく映し出されている。 …そう、そこはそれだけの空間。 ロッカーも、椅子も、何も無い。 打ちっぱなしのコンクリート。 そこにデスクとライトとタブレットだけがある空間。 …なんだ?なんだこれは? 混乱する頭の中で、目の前のタブレットから 先ほどのインターホンと同じ男の音声が流れる。 「…ようこそ『メンナシ探偵事務所』へ。  私は探偵のメンナシだ。まずは、君の話を聞かせてくれないか?」 俺は、その光景にただ驚き、立ち尽くしていた…。
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