【激情】

6/28
前へ
/81ページ
次へ
横に張り出したダクトへ入り、とりあえず体を休ませる。階段で上がるにしても疲れる高さまで、全身使って上がって来たんだぜ? せめてランニングくらいしておけばよかったと、こんな時に後悔するとは。 ここは幹部達の部屋より、一つ上のエリアの筈だ……体力が多少戻ったのを感じて、俺はほふく前進で進み始める。明かりが漏れる換気口は少ない、いくつめかのとき、やっと姿を見つけた。 あおいは椅子に座って、膝の上の手をじっと見つめている。 「……あおい!」 小さな声で呼んだ、あおいはきょろきょろと声の主を探しているようだ。 「あおい、ここだ」 呼ぶとくいっと顔を上げて俺を見つけてくれた、すぐに嬉しそうに破顔する。 「あおいだけか?」 「はい」 「部屋に監視カメラや盗聴のたぐいは?」 「ありません」 「あおい」 俺は換気口を塞ぐ金網の隙間から指を出した、あおいは椅子を換気口の真下に持ってくるとその上に立つ、互いの指を絡ませた。 「ごめん、俺の所為だな」 あおいは笑顔で首を左右に振った。 「いいんです、私、谷屋さんのお役立てて嬉しい。」 役にだなんて──出逢って間もない俺にまで尽くすのか? 罪の意識も薄いだろうに、なのに俺の所為であおいが死……いや、破壊されるなんて。 「──逃げよう」 俺は提案した。 「……え?」 「このままじゃやばいんだろ? 一緒に逃げよう」 「でも、谷屋さんが逃げる理由が……」     
/81ページ

最初のコメントを投稿しよう!

22人が本棚に入れています
本棚に追加