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音楽を聴きたくなって立ち止まる。
紺色のリュックのポケットからプレーヤーとイヤホンを取り出す。
好きな歌。
ずっと昔から好きな歌手の、雨の日を歌った歌。
ギターひとつで歌う彼女のその声がイヤホンから流れて耳元で鳴る。
気持ちがいい。
誰もいないのを見計らってから、気付いたら駆け出していた。
特別急いでいるわけでもないのに。
でもこういうときってない?
誰もいない道を突然駆け出したくなることって。
川を過ぎて住宅街に出る。
よく考えれば家まで行くならこの道はただの遠回り。
「っわ......!」
走ったせいで
背負ったリュックの肩紐に引っかかったイヤホンが耳から外れる。
「!」
弾みで胸ポケットから飛び出す
プレーヤーがアスファルトに打ち付けられた。
鈍い音がしたけど......よかった。
画面は割れてない。
ほっと息をついてから
立ち上がってまた前を向いた。
横断歩道の向こう。
大分前に潰れた道沿いのクーリング屋の屋根の下に
立ち尽くしている人影をひとつ見た。
曇ったままの雨空を仰ぎ見ていた彼を。
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