伯爵夫人、暴行罪でマルチーズ犬を訴える

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伯爵夫人、暴行罪でマルチーズ犬を訴える

「ここが花の都、パリなのね! とってもステキ!」  太陽の光でキラキラと輝く金髪と、エメラルドの宝石のような緑色の瞳がとても印象的な十三歳の少女マリーが、フランスの首都パリにやって来たのは、現在から三五〇年以上前の一六六五年春のことだった。 「姫様、きょろきょろしていると危ないですよ。ちゃんと前を見て歩かないと……」  マリーのお世話係であるサラが、黒猫のニーナを両手で抱きかかえながらマリーを追いかけ、そう注意したけれど、どうやらマリーの耳にはサラの言葉は届いていないようだった。 天国まで届きそうな高さの教会の塔、とても大きくて白く美しいポン・ヌフ橋、お祭りのようににぎわっている市場、街路を行き交うたくさんの美しく飾り立てた馬車……。  マリーにとって、何もかもが初めて見る物で珍しく、心がウキウキしていたのだ。 「昔、お父様が私に教えてくれたことは本当だったのね。お父様がおっしゃっていた通り、パリは満開に咲きほこる花のように美しく、夢の国に迷いこんだようにステキな都だわ。ねえ、サラ。あなたもそう思わない?」     
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