伯爵夫人、暴行罪でマルチーズ犬を訴える

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「ねえ、ちょっと! いつまで私をほったらかしにするつもりなの? 早く助け起こして! こけた時に右足をくじいてしまって、一人では起き上がれないのよ!」 「ごめんなさい。今、助けますね。サラ、手を貸して」 「姫様、私一人で十分ですわ。お任せください」  マリーに対して無礼な口のききかたをした貴婦人をキッとにらんでいたサラは、そう言うと、貴婦人の腕を片手でぐいっと引っ張り、わざと乱暴に助け起こした。 「痛い! 痛い! 腕が痛いわ! あなた、華奢そうな見た目のくせに、なんて怪力なの!?」 「……毎日、剣術のけいこをしていますので」  ムスッとした表情でサラが答える。主人であるマリーに対しては過保護すぎるほどお世話をして、尽くしまくる忠犬のようなサラだが、自分の主人を馬鹿にしたり、軽く見たり、なれなれしく声をかけてくる者に対しては凶暴な番犬のように敵意と警戒心を向けるのだ。 「マダム(奥様)、ケガをしたのは足だけですか?」  ニーナにひっかかれてヒリヒリ痛む頬をなでながら少年がそうたずねると、貴婦人は、 「痛むのは足だけじゃないわ! 頭に大きなたんこぶができたし、腰やお尻もズキズキと痛いのよ! これじゃあ、今夜、王様の宮殿で行なわれる舞踏会にも出席できない! この無礼な犬の飼い主に治療費や慰謝料を払ってもらわなくちゃ!」     
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