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キンキンと耳にひびく金切り声でわめき、犬が飛び出して来た馬車の車輪をゲシゲシと蹴って「飼い主、出て来なさい! さもないと、馬車に火をかけるわよ!」と物騒なことを言った。「足が痛いんじゃなかったの……?」とサラがボソッとつぶやいたが、興奮している貴婦人の耳には届かない。
「そ、その犬はオレのペットではない!」
馬車からハンサムな若い貴族がそう言いながら出て来ると、貴婦人は「まあ! あなたはオーノア伯爵じゃない!」と、おどろきの声をあげた。どうやら知り合いだったらしい。
「おや、そう言うあなたはシャラント伯爵夫人じゃないですか。先日の舞踏会ではお世話になりました」
「あなたの犬ではないとは、どういうことですか?」
「急に馬車に飛びこんで来て、オレの手に噛みついたんですよ。どこのだれが捨てた犬かは知らないが、おそろしく凶暴な犬で……」
「そうだったのね……。だったら、この犬自身に、私をケガさせた責任を取ってもらうわ」
シャラント伯爵夫人と呼ばれた、中年の貴婦人はそう言うと、マリーとサラがビックリするような宣言をした。
「このマルチーズ犬を暴行の罪で裁判所に訴えます!」
「え!? ど、動物を訴えるんですか? 犬ですよ? 法廷に立たされても、ワン! しか言えませんけれど……」
シャラント伯爵夫人が笑えない冗談でも言っているのかと思ったマリーはそう言ったが、シャラント伯爵夫人の怒りに満ちた顔を見ると、どうも大真面目のようだとわかった。
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