伯爵夫人、暴行罪でマルチーズ犬を訴える

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「はい、そうですね、姫様。……でも、私たちは今、本当に迷子になっている真っ最中なんですから、そんなお気楽なことを言っている場合ではありませんわ。日が暮れるまでに目的地にたどり着かないと、一文無しの私たちは宿に泊まることもできません」  生まれ故郷をわずかなお供とともに旅立ち、パリをめざしていたマリーは、途中で盗賊におそわれてしまい、有り金を全部奪われていたのである。しかも、お供はその時にちりぢりに逃げ、マリーのそばに残ったのは忠実な侍女のサラとペットのニーナだけだった。  サラは、マリーよりも一つ年上の十四歳の少女だが、愛する主人であるマリーの身の回りのお世話だけではなくボディーガードもするために昔から剣術を習っていてけっこうな腕前だったから、おそいかかるたくさんの盗賊たちからマリーを何とか助け出し、やっとの思いでパリに無事到着したのであった。 「あれだけ恐い目にあったばかりなのに、姫様はのんきなんだから……。パリだって、油断をしていると、どんなトラブルに巻きこまれるか分かりませんよ。十分注意をしないと……」 「サラは心配性ねぇ。昨日、盗賊におそわれたのは、近道をしようとして山道に入ってしまったからよ。こんな大都市のど真ん中で、そんな簡単に不幸が降ってくるわけがないわ」     
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