伯爵夫人、暴行罪でマルチーズ犬を訴える

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 ブタがまったく離れてくれなくて、どうしたものやらとマリーがうろたえていると、一人の少年があらわれ、ブタにそう声をかけた。このブタの名前はグルートンというらしい。 「人間の食い残しよりも、こっちのほうが新鮮でうまいぞ。さあ、食べな」  マリーとほぼ同年代くらいと思われるその黒髪の少年は、トウモロコシをスッと差し出してグルートンの前でひらひらとちらつかせた。すると、グルートンはようやくマリーから離れ、トウモロコシをむしゃむしゃと食べ始めたのである。 「あの……。助けてくれて、ありがとうございます」  マリーは、頬を赤く染めながら少年にお礼を言った。  別に少年にひとめぼれしたわけではなく、小さな頃から城の中で侍女たちに囲まれて育ったマリーは、同年代の男の子と話したことがこれまでいっさい無かったため、少し緊張しているのだ。……それに、生ゴミまみれのこんなかっこう、恥ずかしすぎる……。     
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