伯爵夫人、暴行罪でマルチーズ犬を訴える

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「気にしないでください、マドモワゼル。このトウモロコシは、最初からこいつに食べさせてやるために市場で買ったものですから。それにしても、災難でしたね。さっきの見ていましたよ。……パリはたくさんの美しい建物が建ち並ぶ花の都なのに、家庭のゴミを路上に捨てて街を汚してしまう人たちがたくさんいて、大きな問題になっているんです。このグルートンというブタは、そんなマナーの悪い人間たちが路上にまき散らした生ゴミを食べることで掃除してくれているんですよ。人間なんかよりもブタのほうがよっぽどキレイ好きだということです」  少年はトウモロコシを夢中になって食べているグルートンの頭をなでながらそう言った。 「そのブタさんとは仲良しなんですか?」 「ええ! そりゃあ、もう! 僕は動物が大好きでして、動物を守るための仕事をしているぐらいなんですよ」  マリーにブタと仲良しなのかと聞かれると、少年はうれしそうにそう答え、ブタの頭をわしゃわしゃ、わしゃー! とさらに激しくなでた。すると、  ブヒーッ!  あまりにもしつこくなでられてイラッとなったグルートンが怒り出し、強烈なタックルで少年を吹っ飛ばしたのである。男にしてはひ弱な体つきの少年は「ぎゃふん!」と言いながら路上にたおれた。  少年をノックアウトしたグルートンは、ダウンしている少年を見下ろしながら、馬鹿にした感じで「ブヒ!」と一度鳴くと、少年が落として地面に転がっていたトウモロコシをくわえ、てくてくと歩いてその場を去って行った。 「かっこわる……。仲良しどころか、嫌われているじゃない」  サラがあきれながらそう言い、少年を助け起こした。 「いてて……。背中が痛い。ケガしていないか、ちょっと見てくれないかな?」 「後で、自分で鏡でも使って確認してみたらどうです?」     
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