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サラは、冷たくそう言った。自分の大切な主人である姫様になれなれしく話しかけてくる少年のことが気に食わなかったし、ブタにタックルされて涙目になっているような軟弱な男なんてタイプじゃないわと考えていたのである。
数年前に亡くなったサラの父親は、かつてフランス国王を守る軍隊のひとつである近衛歩兵隊の隊長をつとめていた勇敢な男だった。だから、サラの理想のタイプは、父のように強い人なのだ。
「サラったら、冷たいわ。この人は、困っているところを助けてくださった恩人なのよ。ケガをしていたら大変だから、ちゃんと見てあげて。嫌なら私が見るわ」
「姫様がそうおっしゃるのなら……」
マリーの言葉には逆らえないサラは、いかにも渋々といった顔つきをしながらそう言い、少年の背中を見てやろうとした。
しかし、ちょうどその時、ビックリするような事件が起きたのである。
突然、男の怒鳴り声が近くでして、おどろいたマリーやサラ、少年は「いったい何だろう?」と周囲を見回した。怒鳴り声は、どうやら、マリーたちから少し離れた場所にとまっていた馬車の中からしたようだ。
「こら! バカ犬! 大人しくしろ! あっ、痛っ! くそっ、噛みやがったな!」
キャン、キャン、キャン! と、犬の鳴き声も聞こえる。犬が馬車の中で暴れているのだろうか? マリーたちがそう考えて馬車をじっと見つめていたら……。
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