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六年間で覚えてしまった番号を目で追い、通話ボタンをタップすれば相手は待ってましたとばかりに、ワンコールで電話に出た。
『千花ちゃん?』
「うん。直哉君、今電話平気?」
『うん。起きて待ってた。飲み会だったんでしょう?』
「そう。でも、明日朝一の会議があるから飲んでないよ」
ソフトドリンクでお腹タプタプだよ、と言葉を続けると、電話越しに直哉がほっと息をつくのが分かる。
『千花ちゃんはすぐ酔っ払うんだから。飲むのは俺がそっちにいるときだけだからね』
「でた!過保護~!」
ケラケラと笑いながらそう言ってくる直哉を揶揄うと、今度は大きな溜息が聞こえてくる。
「何よー」
『別に。あ、十四日早く帰れそう。十五時には家に着くかな』
「ホント?あ、じゃぁ、さっきのお土産の鯛、カルパッチョ用とソテー用に捌いといて」
『ん。それくらないなら』
そう返事を返しつつ、電話の向こうで直哉があくびをする音が聞こえる。眠たいの?と千花が問えば、ふふ、と吐息のような笑い声が聞こえてくる。何処と無く艶っぽさを含んだその声に、千花の心臓がどきり、と大きく跳ねた。
『大丈夫。ここんところ朝早かったから』
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