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「ならいいんだけれど。無理しないでね!」
飛び跳ねた心臓の煩さを誤魔化すように、電話口での千花の声が早口になる。そんな千花に、直哉は全てお見通しとばかりに笑い声をあげる。
「もうすぐ会えるからね。いい子に待ってるんだよ?」
「っ!バッカじゃないの?!全然平気だし!直哉君が居なくたって充実してるし!寂しくないし!楽しいし!みんなと遊べるし!それに、それに……」
『それに?』
冷静な直哉の返しに、千花の言葉が詰まる。六年はあっという間なようで、実際はとても長い。直哉に千花の強がりを知られてしまうには十分だった。
『千花ちゃん、もうすぐ帰るよ。そうしたら付き合って六年のお祝いしようね』
優しい直哉の声が耳に響いて、千花の鼻の奥がツン、と痛む。
「……うん。直哉君の好きなオニオングラタンスープ作る」
『うん。中に入れるパンは、ちゃんと木野山のパン買ってきてね』
「うん。もう予約してある」
『よしよし。千花ちゃん」
「……ん」
『千花ちゃん、今年も丸いチョコが食べたいな』
「……ん」
『カカオ、たっぷりまぶしてね』
「……ん」
『あれ?丸いチョコじゃなくて、トリュフだよって怒んないの?」
「……ん」
『もうすぐだから。泣かないんだよ?』
「……ん」
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