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ぎゅ、と隙間なく抱きしめられると身長差から千花は直哉の胸に顔を埋める形となる。その温もりを存分に味わっている所で、頭上からとんでもない爆弾が降ってきた。驚きのあまり、溢れた涙も引っ込むほどだった。
「え、え?!ちょっと、待って!?」
「ふぁぁ~、俺もう眠いんだけど……」
「寝ないで!直哉くん!それどういうこと!?」
「……は?」
「私、に……す、きって……」
千花がその言葉に驚き、顔をあげれば、いつも通りに笑みを浮かべた直哉と目が合う。
「あぁ。別に気にならなかったけど、やっぱり言ってもらうと嬉しいよね~」
直哉の独特の語尾が延びる喋り方に、いつもなら『そうだねぇ~』なんて同調してしまう所だが、今日の千花はそういう訳にもいかなかった。
「わ、わわたし、言ったことなかった?!」
「え、うん」
「ききききき、気がついてたの!?」
「うん」
「ななな、直哉くんも私に言ってなかったよね!?」
「ぷっ。千花ちゃん吃ってる!」
「そそそこじゃない!?直哉くんも私に好きって言ってくれなかったよね!?」
言い争っているように聞こえるが、直哉は千花を抱きしめたまま、けらけらと笑っている。しかし、どうだ、言ってやったぞ!とばかりに千花が言葉がなかったと伝える。すると直哉は、思案顔とともに、また一つ爆弾を落とした。
「うーん……。千花ちゃんも言わないから、必要ないのかと思ってた」
「……なっ!」
「俺はちゃんと好意を示してたし、千花ちゃんもそれにちゃんと応えてくれてた」
「……それは、そう、だけど」
「でしょ?すき、とかあいしてる、とか口に出すのは簡単だけれど……俺の気持ちってそんなもんに収まるもんでもないし」
「……そうなんだ」
「でも、今日千花ちゃんが言ってくれて嬉しかったから。口にするのも悪くないなって思った」
背中に回る直哉の腕に力が入る。千花の髪に顔を埋めた直哉は、「これからはちゃんと言おう」と宣言する。オマケに、「千花ちゃんが嬉しいと俺も嬉しいから」なんて、男前な台詞もくっつけて。
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