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 結局、初日は営業中のレストランの華やかなホールの様子を一目も見られないまま、裏方の仕事だけで終わってしまった。くたくたに疲れて、しょんぼりとパントリーを出ようとすると山崎が通りかかった。今度こそという思いをこめて、極上の微笑みを浮かべながら「お先に失礼します」と声をかけてやった。だが、ちらりと一瞥して「おつかれ」と素っ気なく言うだけで去っていく山崎に、また深見の自尊心はずたずたにされてしまった。  マジでサイッテー!  俺が声掛けてるのに、にこりともしないでさ!!  山崎に対する深見の評価が、初日にして一気に最低ランクに下がったのは言うまでもない。  それからは徐々に客が帰ったあとの食器の片付けや、テーブルセッティング、水の給仕、とホールにも出させてもらえるようになったが、深見の中での山崎の評価が再浮上することはなかった。  それでも深見は、山崎をずっと見続けていた。正確に言うと山崎が何を見ているかを見ていた。  山崎の視線の先をいつも見て、その状況を汲み取り、山崎が一歩を踏み出す前に飛び出していって皿を下げたり、追加オーダーをとったりすることに躍起になっていた。山崎にだけは使えない奴だと思われたくなかった。自分を出来の悪い奴のように扱う山崎を見返してやりたかった。  一ヶ月間の研修期間を過ぎたあともそれは続いた。  そうやってずっと見ていて気づいた点もある。細かなところにまで気配りが行き届いた完璧な仕事。一切の妥協を許さない真摯な態度。お客様に話しかけられれば、普段の無愛想が嘘みたいに、涼やかな目を少し細めてまるで花が綻ぶように見事な笑みを浮かべる。     
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