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「なになに? でんちゃん、随分熱心に秀ちゃんくどいてるじゃん」  深見が茶化すように言葉をかけると大河内は、慌てて手をひっこめる。その慌てぶりから深見は自分の言葉がそう外れてもいないのだと感じた。 「べ、別にくどいてませんって。今日俺、誕生日なんでちょっと飲みに誘っとっただけです」  ふと深見の中に、ちょっとした悪戯心が湧いた。大河内の言葉に方言が混ざるのは、心に余裕がなくなっている時の癖だ。何か後ろめたいことがあるに違いない。 「まじ? 誕生日なんだぁ、おめでとー。んじゃ俺も仕事あがったら速攻合流するよ」  わざと何も気づかないフリをして、にっこりと微笑みながら大河内の腕に抱きついた。 「あ、えと……」 「何? 俺行ったらメーワク……?」  深見はちょっとムクれたように唇をとがらせ、上目遣いに大河内を覗き込んだ。そうすれば大概の男は自分に反論できなくなる事は学習済みだ。  案の定、大河内は少し頬を赤らめて目を泳がせ始めた。 「い、いや、そういう訳じゃ……」 「よかった!」  有無を言わせず極上の笑顔を見せてやると、二の句が継げないでいる。 「終わったら携帯に電話するから場所教えてねー!」  深見は大河内が何か言い出す前に、手を振りながらその場を後にした。ちょっと面白い事になりそうだ。うきうきして、思わずスキップまで出てしまった。  その後、深見は客足が鈍くそれほど忙しくないのをいいことに、上司である山口に了解を取り終業の時間より少し早めに仕事を切り上げてロッカールームに戻った。
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