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 深見光彦が自分の性的指向――つまりゲイであること――に気がついたのは高校一年の夏、あと一週間もすれば夏休みが始まる、という梅雨の晴れ間の蒸し暑い日の放課後であった。  深見は一学年上の先輩にひと気のない体育館の裏側に呼び出されていた。その先輩が同じ社研部の人間だという事は知っている。だが、社研部というのはたまに顔を出してもただ集まって雑談をして帰るだけの、ほとんど活動のない部だ。その先輩も一度か二度話をしたことがあるかもしれないな、程度の面識しかない。  だから、突然の呼び出しも全く身に覚えがなく「何か恨みを買うようなことをしたっけ?」「気に障るようなことしたっけ?」「いきなり殴られたらイヤだな」、と若干おどおどしながらその場所に向かった。  しかし、そこで待ち受けていた先輩は深見に思っても見なかった一撃をくらわせた。と言っても実際は言葉を発しただけで危害を加えられたわけではないのだが、深見にとってそれは頭をがーんと鈍器で殴られたような衝撃だった。 「深見のことが好きなんだ。よかったら俺と付き合ってくれないかな」  大柄な先輩は照れたように後頭部を掻き、伏目がちながらもはっきりとこう告げた。  深見の通っている高校は男女共学だがこの先輩はもちろん男で、そして深見も間違いなく男だ。 (男が男に愛の告白? しかもこんなすんなりとあっけらかんと!?) 「先輩、俺、男なんですけど……」  あまりの衝撃に頭真っ白な深見に、先輩は追い討ちをかける。 「あれ? 深見ってゲイだよな……?」  ゲイっていうのはホモってことなわけで、男同士でエロいこととかしちゃうアレなわけで。  テレビでよく観るオカマの芸人がかしましく脳内を駆け巡り、深見は軽いパニックに陥った。
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