04

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 壁に掛けられた時計は、午後四時半の少し前を指している。  深見はロッカーに備え付けられた小さな鏡を覗き込んで、ボウタイが歪んでいないことを確認した。ついでににっこりと微笑んで笑顔のチェック。今日も完璧な仕上がりだ。この臙脂色のタキシードも入社して間もなくは、なんだか七五三のようだったが、今ではなかなかさまになってきている。  新しい勤務先である、バー「アイラ」の開店時間は午後五時。その三十分前には出社して開店準備を始め、途中休憩を挟み、閉店まで勤務することになっている。帰宅時間が遅いのはツラいが、毎日同じパターンで生活を送れるだけでも精神的にかなり楽だった。深見は一ヶ月も経たないうちに、新しい職場の環境に慣れることができた。  今まで勤務していたメインダイニング「スペリオール」は営業時間が長い分、早番や遅番などシフトも複雑で、閉店まで働き、くたくたになって家に帰り翌日は早朝出勤、などという無茶な勤務の時もあった。身体が馴染むまでに随分苦労したものだ。  深見は鼻歌まじりにロッカールームを後にすると、軽い足取りでエレベーターホールに向かった。途中、見覚えのある二人を発見して、立ち止まる。  一人は「スペリオール」で仕事をしている時に一緒だった、バイトの大河内。もう一人は今年入社したての後輩、若山秀行だ。深見が「スペリオール」から「アイラ」に異動になった時に入れ替わるように「スペリオール」に配属されていた。  大河内は、自分より一回り背の低い若山の頬を両手で包み少し身をかがめるようにして覗き込んでいる。若山は抵抗もせずにただぼんやりと大河内を見上げている。放っておいたらこのままキスでもしそうな勢いだ。誰が通るかわからない場所なのに、かなり大胆だ。
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