吊られた鐘が鳴る音は(1)

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吊られた鐘が鳴る音は(1)

   開くはずのない扉が開いた。  黒い靴底が床を嘗(な)み、白い煙が鼻を撫でつける。その香の先に金塗りの仏壇が光り、教誨師が傍らで経を上げている。  三方のくびを括られ、為す術無く立ち尽くす男を何者かが嗤(わら)う。死にたいのか、と冷たく笑う。  違う。そんなはずはない。こんなものを自分の人生とは認めない。まだ何も始めていないのに――。  あっ。瞬く間に暗闇が落ちた。暗く閉じるその前に、肉の砕ける音が火花になって瞼の裏で遊んだ。  
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