Ⅱ 迷い

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朝1番の、6Fのフロアは気持ちがいい 見渡す限りに人はおらず しん と静まり返っている中に 俺のキーボードの音だけが響く 仕事もはかどる 30分ほどして、松原がやってくる 松原はいつも眠そうに 「はよっす」 とだけ呟いてデスクに着く ほんとに営業行ってんのか? と疑いたくなるような覇気のなさだが 数字が1番いいのはこいつだ 頭が上がらない 次にでかい声で小平と野口がやってくる 昨日の飲み会の続きしてるのか? と言いたくなるくらい、朝から元気だ 「おはよーございますっ!!」 笑顔が可愛らしいのは 春からの新人、野口勇人だ 第一印象は、子犬 目がくりくりして、彫りが深く それでいて愛嬌がある 客先からも可愛がられるだろう ただ… 「勉強になります!」 小平が勉強になるようなことを指導するわけがない ちょっと騙されやすそうなところが危うい 「なんでも聞いてちょ」 んじゃね、といいながら お調子者の小平は自分のデスクへ向かう ガヤガヤと、フロアが騒がしくなる だが俺の目の前の島には、まだ空席がある 始業時間3分前 そろそろ来るな 「すみません!」
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