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腫れ物に触らないように
誰もが俺を扱った
「この度は御愁傷様です」
「いえ、ご迷惑をおかけして申し訳ありません」
この会話を何度繰り返したことか
6年前の春、由美は突然帰らぬ人となった
当時のことは、よく思い出せない
突然携帯電話に、警察から電話がかかってきたこと
申し訳ございません
と膝をつく青年
涙を流す暇もなく進められる手続き
頭上を流れる会話
ひとつだけ覚えていることは
遺体を焼いた時、煙突から流れる煙
もくもくもく
もくもくもく…
ただただ涙が止まらなかった
やっと泣くことができた
生きる意味を考える暇もないくらい
毎日必死に生きた
生きなきゃ
生きなきゃ
思いとは裏腹に、減っていく体重
やさぐれる外見
「大曾根くん、大丈夫…?」
自分のことも気遣わぬまま走り続けていた
久々に会った東郷から声をかけてもらわなければ
ダメになっていたかもしれない
「ありがとう、大丈夫」
子供たちは、実家の母がいなければ
どうしてやれたか分からない
何を言うでもなく、暖かく迎えてくれた
両親に感謝しかない
あれから、6回目の春
週末花見に行こうねって、意気込んでいた由美の笑顔
俺はいつか忘れてしまうのか?
春の屋上のベンチは、日差しが暖かすぎる
「部長?」
目を開けると、目の前に由美がいた
「由美…」
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