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暑いね、と、空を仰ぎながら先輩が唇で言う。ほぼ真上にある真夏の太陽が、流れる汗をも蒸発させるほどに照っている。
肌がじりじりと焼ける感覚。
学生の頃に味わった、夏。だった。
先輩はそれきり何も言わなかった。聡子も何も言わなかった。
音のない屋上。
産毛にそっと触れるような風。
背筋を伝う汗。
───。
遠くから押し寄せてくる蝉の鳴き声。
信号機の電子音。
レールの上を走る電車の車輪。
無数の人の気配。
音に溢れた屋上。
耳が遠くの音を拾うようになってきても、先輩は相変わらず柵に腕をのせていた。
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