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私の瞳は、生まれつき光を映さない。
たった一つ、意図せずして見えてしまうモノを除いては。
だから私には、わからないものがたくさんある。
親の顔もわからない、三つの時から一緒に居る、大切な友達の顔に、瞳の色も。
花の美しさ、友達が好きだと言っていた雨上がりの虹。自身の顔すら。
全ては触れてみて、指先で輪郭を探るだけ。ただぼんやりと、想像するだけ。
霞がかかったように、うっすらと脳裏に浮かぶだけ。ただ、それだけで、もちろん色はない。
いつものように、真っ暗な景色を歩く。ここが本当に道なのか、時々不安になる。けれど毎日、あの日から欠かさずに、大切な友達との待ち合わせ場所まで。
耳を澄ませて歩くのだ。
こうして出歩くようになって、何年経っただろうか。
最初は、毎日飽きもせずに、電話で呼び出されていた。その内、
「連絡しないときには、待ち合わせ場所で会いましょう」
と言われた。
それからは、電話が鳴らない日は、待ち合わせ場所へと向かっている。
この長い付き合いの友達は、結構、強引だった。それも、嫌いじゃない。
彼女が居なかったら、私は、家の中に引き籠ってばかりだったと思うから。
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