1.樹木の下で

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 手のひらを開くと。  そこには小さな星があった。  幼い頃から気がつけば刻まれていた星。  小さな、小さな星。  お母さんに見せると、お母さんは言った。 『これは幸福の星よ』と。  私はそれを信じていた。  ずっとずっと、信じていた。  だから、今も信じている。  お母さんが倒れた今も。  必ず、必ず、元気になって戻ってくると。  この願いは叶うのだと。  幸福の星は、願いを叶えてくれるのだと。 「遠藤」  由良(ゆら)は名前を呼ばれた気がして、振り返った。  目を向ける先には、誰もいない。  ・・・え。  由良は、心の中で一つ呟く。  明らかに、今。  呼ばれた声がしたけれど。  由良は腑に落ちないまま、もう一度自分の周りを、今度は広範囲でぐるりと見渡してみる。  桜の名所である、千鳥ヶ淵の周辺は既に夜も更け。  人影もまばらだ。  由良はもう一度、辺りを見回してみる。  でも、隣の国道を往来するヘッドライトしか、目に流れてこなかった。  ・・・誰も、いない。  由良は、再度心で呟く。  絶対、呼ばれた気がしたのに。  由良は納得がいかないまま、軽く息を吐く。  一度止めていた足を、また踏み出した。  
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