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―――疲れてるのかな。
ぽつりと、心で呟く。
否定できない、言葉。
規則的に、惰性的に、前へと踏み出されていく爪先を、ぼんやりと目で追っていると。
このまま、どこか良く分からない場所へ、促されて。
見えないような、知らない場所へ、行ってしまうような気がした。
確かに、足は前へと踏み出しているけれど。
心は、ない。
消えている。
形だけ、ただ繰り返し踏み出される足は、本当は前になんか進みたくないとでも言っているように見えた。
いつも、描く心象が、そのまま照らし出される世界。
由良の目の前に映る世界は、どこか、人が居るはずの世界なのに居ないように思えてくる。
今いる世界で、たった一人ぼっちなのではないかと思う程、孤独感が襲ってきて、徐々に恐怖を覚えてくる。
今、この瞬間が現実だということを、精いっぱい、否定したい自分がいる
そりゃそうだろう。
由良はぼんやりとしたまま、歩き続ける。
誰が信じたいものか。
あの笑顔を見て、尚、信じられるものか。
由良は、そう、言い聞かす。
仕事帰り。
毎日、立ち寄る病院へ、今日もいつものように向かって行った。
母が、入院している病院だ。
そこは、由良が働いている会社が入っているビルを出て、道なりに五分ほど大きな通りを歩くと現れる病院だ。
母親が突然、家で倒れた日。
由良は、救急車で運ばれる母の隣につきながら、救急隊員が電話をしながら、どこの病院が受け容れてくれるのかの話に耳をそばだてていた。
救急隊員はあちこちに連絡をした後、由良に選択をゆだねてきた。
ひとつは、家から割と近い病院。
家の最寄り駅から、電車で三駅の場所にある総合病院だ。
もうひとつは、職場から歩いて行ける総合病院。
由良にはどういった基準で病院を選んでいいのか、わからなかった。
悩みながら、由良は、意識を失っている母の顔を見。
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