イコールゼロ

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僕が死んだとして、一体どれほどの人が泣いてくれるのだろうか。同僚のあの子、上司のあの人は? そして僕は僕の亡骸の前でそれを見ているのだ。死後を信じているわけではないが、根拠もなくそれができると疑わない。 僕は思う。ならなんで、生前大切にしてくれなかったんだ。お前たちの涙は、遅すぎるんじゃないのか、と。 そこまで考えて僕は仕事の手が止まっている事に気づいた。いけない、こんなことを考えていてはまた上司に見つかったら何と言われるか。 このペースでは、また帰れるのは11時だろう。僕はふと、学生時代の長期休み最終日を思い出した。 僕が大学を卒業し、この会社に就いて2年になる。その間に、僕の身体と精神は摩耗し今では僕が死んだら、といった極限まで負を帯びたたらればの想像に安寧を見出している始末だ。きっと、何事もなせぬまま死んでいくのだろう。 しかし当然自殺する勇気などない。この青白い手首に刃を当て、自分が死んだ後の虚無の世界まで見据えて掻っ切る。そう考えると、手首からの感覚が消えた。それがあまりにも不気味で、今すぐ考えることをやめた。 僕ができるのは、今こうしてPCの前に座り歯車として意思すら持たず回り続けること以外にないのだ。 だから僕は、 「おいお前たち、ニュースみたか」 と社長が血相変えて飛び込んできたとき、微かに踊った心があるのを知覚した。 ――曰く、人間が滅びるらしい。約200年後に。 それを聞いた時の他の社員の反応は様々なものだった。阿呆のように唖然とするもの、恐怖で涙を流すもの、白けたような顔をするもの。しかし社長が仕事の合間にニュースを見ていたことを言及する奴はいなかった。 そのニュースは固い文字で淡々とこう綴られていた。 太陽になんらかの異常が発生し、徐々に地球に届く熱が増加していく。そうして200年後の日本では1月で平均41.3度、8月で78.4度と予想される。200年後の時点では寒帯でなら人類の生存は可能だが、急速に氷河が溶け世界の大陸の半分以上が水没するという。人類生存可能領域が1%未満に達した時点で『人類滅亡』と定義し人類史に幕を下ろす。人がいなくなった後も温度上昇は続き、1200年後には太陽が、太陽系全て巻き込み爆発する。
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