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原因はまだわからないらしいが、たとえどんなものであってもちっぽけな霊長類ではどうしようもないだろう。もとより生き物、植物が代表例だが光合成など光が当たり前のようにあるものとして活動している。それがたった200年で根底から揺るげば絶滅は必至だろう。200年というのは、進化には短すぎる。地球がなくなる1200年後も、地球の歴史の46億年にくらべれば瞬きするくらいの時間だ。
きっとこの事件は数か月前ほどにはわかっていたのだろう。そして、幾人もの科学者が嘘だ嘘だと嘆きながら、やっと事実が無謬であると認めたのだろう。それが酷く滑稽にみえて、場違いながら笑みがこぼれる。誰かが僕を見たら、頭がおかしくなってしまったのかと思うだろうか。もとより自殺志願者に正気も何もないが、僕は自分がおかしいだなんて思ってはいない。
有限の生をもつ生物は、後世を残すのが至上の喜びであるはずだ。しかし日本では人口減少が社会問題になっている。契りも結ばず、一人で生きていく。これが生物としていかにイレギュラーかは語るまでもない。つまり一部の人間は、後世を捨てているのだ。
僕たちが生きている間にも問題はたくさん発生するだろう。生きにくくもなるだろう。しかし、灼熱に焼かれ等しく死が蔓延する終焉の時を僕たちが体験することはあり得ない。決して体験することのない空想の世界と同じじゃないか。ならばなぜ、そんなに嘆くのだろうか。
――という僕の考えには虚勢が混じっていると気づいたのは、帰って一人きりになった後だった。
僕の予想より3時間も早く家に帰ることができた。まさか、人類滅亡というだけであの会社が動くとは思っていなかった。
駅から徒歩30分の所にある僕のマンションにはもう一人だけ住人がいる。入社1年でストレスに耐えれなくなった僕は無理をして猫を飼った。白のスコティッシュフォールド、最初会った時に鳴いたのがキィだったことからキィと名付けた。キィと一緒に住むために、わざわざ少し遠いペット可のマンションを選んだのだ。これが僕の命綱になっていることは言うまでもない。
風呂を沸かす間、僕はキィを抱きながらテレビをつけた。どれもニュースばかりで昼の出来事を伝えている。僕はここで初めて、本当に終わってしまうのだなと理解した。
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