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1.新たなる火種
ゲルマニア帝国の首都、ベルリンは数日前から春の陽気に包まれていた。宮殿では窓がみな開け放され、廊下に陽光が入り込んでいる。
暖かい空気に包まれた石畳の廊下に、暑苦しい軍服に身を包んだ一人の女性が歩いていた。女性というには少し若すぎる気もするが、少女というには大人びている。
女性は廊下の奥で足を止め、腰まである長い金髪を軽く整えると、目の前にある分厚い木製の扉をノックした。
―― コンコン ――
「ローラ・フォン・リヒトホーフェン大尉であります!」
「来たか、入れ」
「失礼いたします」
部屋の主に招かれたローラが扉を開き、中へと足を踏み入れる。
十五メートル四方ほどの部屋にはマホガニー製の大きな机や高級そうな棚、中世の甲冑などの調度品が置かれていて、それなりに身分の高い人物の部屋であることが窺える。ローラは部屋の中央まで進み、奥に座っている人物に向かって敬礼した。
「急な召還で申し訳ないなリヒトホーフェン大尉。東部の戦況はどうだ?」
豪華な椅子に座った三十代半ばと思われる女性が目の前の机に肘をつき、祈るように手を組んでローラに問いかける。
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