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「よ、よんまんえんー!?」 「はい」 「えっ?だ、だって、都内ですよね?1LDKでバスとトイレがきちんと独立して付いてて、中央線の駅まで徒歩15分なんですよね??」 「さようで」 「それで家賃4万円なんて、ありえるんですか!?」 物件探しに訪れた不動産屋のカウンターにて。 オレはあまりの驚愕に、一人雄叫びを上げていた。 平日の真っ昼間で他にお客さんがいなかったので、心置きなくかなりの声量で。 スタッフの数も少なくて、オレの対応をしてくれている30代半ばの黒縁眼鏡をかけた男性(名刺を差し出しつつの自己紹介で鈴木と名乗った)の他には、カウンターの向こう側の自分の席でパソコン作業をしている中年の女性が一人居るだけだった。 デスクは全部で五つあるから、他のスタッフは外に出ているのだろうけど。 ちなみに女性は客のこういったリアクションには慣れているのか、動じる事なく黙々と作業を続けている。 部屋探しを始めてから、すでに二ヶ月以上経過していた。 案の定と言うべきか、仕事の日はとてもじゃないけど物理的にも精神的にも不動産屋に寄り道できるような状態ではなく、休みの日しか動く事ができなかったのだ。 ネットでももちろん物件探しはできるけど、写真だとイマイチ良く分からないし、結局最終的には担当者と直に話して実際に現物をこの目で見て判断しなければならないのだから、あまりそちらに頼るつもりはなかった。 まぁ、不動産屋の場所や電話番号なんかを調べるのには活用したけどさ。 で、休日ってのは週に二日しかない訳で。 しかも仕事の疲れが溜まっていて爆睡してしまって、起きたら昼近くになっていて『今から物件の相談に行くのは面倒だな』と諦めてしまったり、同僚や友人達と前々から出かける約束をしていた日があったりして、二ヶ月経過したとは言っても、その中で実質動けたのは10日くらい。 さらに、そもそもの動き方を誤った。 最初は住み慣れた場所から離れたくないと、自分の地元である埼玉の所沢市内のアパートやマンションを探すべく、不動産屋を回っていたのだけれど、イマイチ納得のいく物件に巡り合えなかった。
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