冷たい花

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「二度とあの男には会うな。会ったらもうお前は俺の娘じゃない」 迎えに来たお父さんから、中本くんと別れるように言われる。 私には、それに反発する力も残っていなかった。 あの後、 中本くんが、S大付属の先生に引き渡されて、散々怒られているのを見たからだ。 「今日はご飯も作らなくていい」 お父さんに突き放されるように言われ、車から降りて、店裏に回ろうとしていた時だった。 路地を歩く、若い女の子とすれ違った。 「……」 顔は良く見えなかったけれど、甘い香りを漂わせる彼女を、思わず振り返って見る。 ーー苺の、匂い。 街中には、早々にクリスマスの準備をする店や家庭が多く、冬の訪れを感じさせていた。 私にとっては、寒い、凍える冬になりそうだった。
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