隠れ家レストランへいらっしゃいませ

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隠れ家レストランへいらっしゃいませ

 あまり知られていないことだが、大阪を流れる淀川の支流に寝屋川がある。そのほとりに隠れ家なイタリアンレストランが佇んでいる。  表通りから生活道路を数本隔てた住宅地を歩くと、小さな雑貨屋が見えてくる。  昼間でも開き戸にカーテンがかかっており、アートフラワーを乗せたワゴンが申し訳程度に置いてある。  営業中の札も下がってないので、多くの人は素通りしてしまう。  それでもお昼時にはスマートフォンを手にした客が立ち止まっては首をひねっている。  彼らはしばらく店の前を何度も往復したあげく、疲れた表情で立ち去ったり、怒りをSNSに吐き出している。  しかし中には諦めきれず住宅地をぐるりと一周した末に嬌声をあげる者もいる。  それにつられてたむろしていたグループが次々と姿を消していくのである。  彼らが進む先には狭い路地がある。薄暗くて窮屈で人ひとり分の道幅しかない。  赤色に輝く立て看板を見つけ「えっ、こんな細い路地の奥に?」と驚く。  無理もない。 「タベルナ・ベント」のオーナーはSNSに疲れた世捨て人で、それでもなお柵しがらみから逃れられない。     
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