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2章
様々な店が並ぶサンロードという通りを、凛のキャリーバッグを転がす祐生とサンダルでぺたぺた歩く七海の後について歩く。あんなに疲れていたのに、憧れの吉祥寺の町を歩き出すと凛のテンションはあがった。
駅前でギターを弾く男性の周りに人だかりができている。長野でもたまにいるけどこっちの人はプロみたい。街を歩く人たちもみなおしゃれだし。
やっぱり東京は違うな。空気が違う、と凛はわくわくする気持ちを抑え切れない。こんな気持ちになったのは何年ぶりだろう。サンタクロースを信じていた頃以来かもしれない。
あちこちの店や横道に入ってみたい衝動を抑えながら、七海と祐生を見失わないようにサンロードを抜け大きな通りを渡る。住宅街に入り、いくつかの角を曲がって数分歩いたところで七海が立ち止まった。
「ここよ」
七海が指さしたのは、新しい家が並ぶ住宅街の中で異様に目立つ古い木造の一軒家だった。祐生がガラガラと横にあけたのは、年季の入った木の門だ。正面には引き戸の玄関扉。
よく言えば味のある、年季の入った古めかしいその家は、住みたい街ナンバーワンのこの街でなかなかの存在感を放っていた。
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