2章

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   凛は部屋をぐるりと見回す。窓を左、本棚を右にした正面の壁には絵が三つ飾られている。どれもとても鮮やかな色使いの、不思議な絵だ。  真ん中の絵は、広く青い海の中心にどーんと大きな木が生えている。腕をまわしても届きそうにない太い幹。その幹からたくさんの長い枝が伸び、弧を描き海面に垂れている。その枝には輝くような緑の葉が茂って太陽に燦めきながら風に揺れている。  左の絵は、夜の公園。両手を挙げて滑り台を降りるスーツの男性、ブランコに立ち乗りするお婆さん、砂場で山を作るセクシーな服を着た女性たち。無邪気な顔で遊んでいる姿を、異様に大きな満月が照らしている。  右の絵は、都心の街を駱駝や象が歩いている。空には孔雀やフラミンゴが飛び、デパートやオフィスビルの窓からオランウータンやパンダが顔や半身を出し、噴水ではかばやペンギンが水浴びをしている。沿道に植えられた木々の葉に首を伸ばすキリンの姿も見える。  絵に目を奪われている凛に、いつの間にか後ろに立つ祐生が「今夜は歓迎会よ」と歌うように言った。凛は曖昧に頷く。祐生は七海さんの彼氏ってことでいいの?母は「七海は吉祥寺のマンションを買ったの。すごいわよねえ」と言ってなかった?
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