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「佐藤主任……もう、我々に打つ手は残っていません」
我に返った高橋が、申し訳なさそうに頭を下げる。その頭を、佐藤が優しく撫でた。
「心配するな。後は私に任せておけ」
「佐藤主任も屋台を出されるのですか?」
「屋台ではない。あれを見ろ」
視線の先には、大きな人力車が置かれている。
「そして、これが私の本気だ!」
佐藤は服を脱ぎ捨てた。腕を組み、赤いフンドシを春風に舞わす姿が神々しく見える。無駄に立派な肉体美は、周りの視線を釘付けにした。
「伊藤課長からは、祭りを盛り上げろとしか言われていない。私はお客様を乗せ、人力車を操り、広大な会社の敷地を駆け抜けてくれよう」
伊藤課長は、祭りを盛り上げろとは言っていない。参加しろと言っただけなのだが、佐藤の頭の中で変換されたのだろう。
「佐藤主任……あなたの凄さは……計算では表せません……」
何故か涙を流す高橋。
「高橋……お前がお客様の第一号だ」
「はい!」
高橋を乗せ、人力車が始動する。
その直後、整備されていなかった車輪が外れた。両手でしっかり掴んでいた人力車の梶棒が浮かび上がり、佐藤の顎に直撃する。
そして、高橋は放り出されて地面に激突した。
二人は気を失い、チーム・メガネのイベントは幕を閉じた。
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