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お祭りイベントの開演ギリギリになって、佐藤はイベント会場へと姿を現した。
山田、鈴木、田中は、それぞれの屋台でスタンバイしている。高橋が佐藤の姿を見つけ、駆け寄って来た。
「佐藤主任、準備は整っています」
「そうか。では、山田の屋台から見せて貰おう」
「驚きますよ」
何故か自信満々の高橋に連れられ、屋台の前へと立った。
「いらっしゃいませ、佐藤主任」
「これは……飴細工?」
屋台には美しい飴細工が並べられている。
「世の中の謎は全て角度で証明できます。美しいと感じたのならば、それは計算された角度の賜物でしょう。この飴細工で、イベントを最高に盛り上げてみせますよ」
飴細工の棒は全て斜め45度に傾けられ、見事なまでの存在感を醸し出していた。
「なるほど。高橋、統計学でこの店の集客率を予想してみろ」
「了解です」
統計学とは、バラツキのあるデータから応用数学の手法を用いて、数値上の性質や規則性、あるいは不規則性を見いだす方法である。
高橋は入社一年目の新米社員だが統計学を極めていた。佐藤の指示で小型のノートパソコンを開き、独自に集めたデータを使い計算する。
「出ました。山田先輩の予想集客率は158%です」
「……158%? 満員電車の乗客率と間違えていないか?」
「他の営業グループも屋台を出しています。しかし、ありきたりな屋台ばかりです。つまり、山田先輩の用意した飴細工は間違いなく目立つでしょう。大きな集客率が予想出来るのです」
山田と高橋のメガネがキラリと光る。計算されつくした状況に、佐藤は心からの拍手を贈った。
「よくやってくれた」
「有難う御座います」
満を持して、お祭りイベント開始される。
山田を祝福するかのように、春の風が巻き起こった。
力強い風は桜の花びらを舞わせ、屋台を中心に幻想的な情景を魅せる。
そして、飴細工は全て風に倒れ、粉々に砕け散った。
「グハッ!」
「やまだー!」
「申し訳御座いません……佐藤主任……私は……ここまでのようです……」
「よく頑張ってくれた。山田の頑張りは、無駄にはしない」
……山田は笑顔で逝った。
佐藤の頬に一筋の涙が伝う。
こうして、山田の屋台は開店と同時に閉店した。
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