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みれば、小さな女の子がぱたぱたとこちらに駆けてきている。
「おにんぎょさん、うごいた!!」
そう叫んで、駆けて来た少女は、キラキラとした目で、空中に浮かぶウサギのぬいぐるみを見上げた。
「…………」
『こんにちは! アタシは”はな”。この魔法使いのお兄さんと一緒に暮らしているの!』
少女の目の前までふわふわと浮かびながら移動してきたぬいぐるみを、ひょこりと動かしてそう言った。
”俺ではなくぬいぐるみが”
いきなりぶっ込まれたファンシーな設定と、目の前で繰り広げられる寸劇(?)に、周囲の大人達はただただポカンとしたままその光景を見つめている。
唯一目の前のクソ天然野郎だけが、「最近のぬいぐるみはしゃべれるんだな!」と的外れなことを言っていた。
「まほーつかいしゃ?」
少女が小首を傾げてそう言いながら見上げてきた。
トランクケースを膝の上に乗せて小さく開けたまま、少女へにこりと微笑んだ。
そしてそのまま鞄に突っ込んでいた手を引き抜くと、ぎゅっと握りしめた状態で少女の目の前へとその手を差し出す。
「…………?」
その行動に訳が分からず、怪訝そうな顔で差し出された手を見つめる少女の目の前で、その握りしめられた手がパッと開かれた。
ポンポンッ
軽い音と共に、手の平から花が溢れ出る。サクラにウメに、スミレ、バラと。
ピンクや白や紫のその花々が、手から溢れ出して地面にぼとぼとと落ちる。やがてその手の平から溢れ出てくるのが花から花びらに変わり、俺と少女の足元をあっという間に埋め尽くした。
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