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首輪がない今なら声が出るとは思うけれど、声を発することで何かされるかもしれない。その恐怖に声は出なかった。
男は俺の耳が聞こえないとでも理解したのか、ジェスチャーを使って、ベッドに寝ろと言ってきた。
この男の目的は何だろう。
俺は逆らうべきではないと、ベッドへ腰かけた。
すると、男は嬉しそうに微笑み、頷いた。
話が通じたことを喜んでいるように見えた。
男は何か思いついたように、部屋を出て行くと、皿とコップの乗ったトレイを運んできて、飲む仕草をする。
皿にはスープらしきもの、コップには水が入っていた。
俺は言われるままに、水を飲み、スプーンでスープを口に運んだ。
毒が入っていても別に構わないと思って口を付けたけれど、スープは温かく、体に染み渡った。
おいしい。
温かいものと言えば、元の世界で飲んだコーヒーが最後だった。あの小川に流れついてからどのぐらいの時が経っているのだろう。温かいものを口にしたのは何年か振りのように感じた。
またその男は嬉しそうに笑い、空になった皿を指さして、スプーンで掬う真似をする。
おかわりの事だろうか。
薄い塩味のする冷たいスープと硬いパンをひと切れしか与えられていなかった俺にはその皿一杯が十分で、首を振った。
男は頷いて、トレーを持つと部屋を出て行った。
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