プロローグ☆進一がやって来た

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プロローグ☆進一がやって来た

高橋一馬はひとりぼっちだった。 大好きだったおじいさまが他界して、執事と二人で広い洋館に住んでいた。 大抵地下の発明室にこもって何か機械いじりをしていた。執事が食事を決まった時間に運んでくれるので、時間の感覚だけは失わずに済んだ。 幼い頃にある発明をして、世間から注目されてしまい、学校には行かずに高橋家の所有する高橋山の山頂に建つ洋館に引きこもった生活を送っていた。 10才の頃にブレーンマシーンを造り上げ、おじいさまの意識を呼び集めた子どもの意識の中に入れる実験をした。子どもたちの保護者から発明家としてというよりは、人間としての倫理観を疑われてますます人間嫌いに拍車がかかった。 「俺は、どうしたら良いんだろう」 いつもそう思っていた。 同年代が中学に進学する年の3月に、高橋一馬の元を、鶴田進一が訪れた。 「久し振り」 屈託なく笑って、進一は挨拶した。 「何の用?」 「一緒に学校に行こう」 「えっ?」 「友だち作りに学校へ行こう。俺が友だち第一号になるから」 一馬は夢かと思った。 「一馬様、行ってごらんなさい」 執事がにこにこ笑って言った。 おっかなびっくりしている一馬を、入学式の朝、進一が迎えに来た。 執事が必要な道具や制服を手配してくれていたので、一馬は進一と一緒に中学校へ行き始めた。 初めはいろいろ戸惑ったが、進一がついていてくれて助言してくれた。 登下校もいつも一緒で、おどけて見せたりからかったりする進一のおかげで一馬の表情に笑顔が出るようになった。 他の子とは滅多に口を聞かずにクラスの隅にいたが、アットホームなクラスだったので、和やかな雰囲気の中でのびのびと暮らしていった。 教師たちの結束も強く、問題を抱えている生徒を取りこぼさないように懸命な学校だった。 「どんな?」 「うん。すごく良い感じ」 一馬は嬉しそうに進一に答えた。 「俺は一人じゃなんにもできないもんな・・・」 「だから俺がいるよ」 一馬にとって進一はまぶしい存在だった。 どうして自分なんかに手を差しのべてくれるんだろう?と思ったが、答えが怖くてその疑問を進一に聞けなかった。 だけど、これだけはたしかだと言えるのは、進一が一馬の人生に転換期を与えてくれたということだった。
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