【第1章】黄金の王子と亜麻色の姫

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「カルミア、負ぶされ。もし追っ手が近くにいるのなら、時間がない」 「兄上……。申し訳ありません……」  カルミアは状況を見て、素直に兄の背に身を預けた。弱った自分の足では、二人の足を引っ張るだけだということは理解していた。  グラナードは妹を背中に背負い軽々と立ち上がる。 「子供の頃は泣きベソをかいたお前をよくこうして負ぶったな。昔と比べると、羽のように軽い」  兄はそう言って笑うと、ここまでその背に乗って来た漆黒の馬の側まで近づいて逞しい首元を撫でた。 「ザンガル、しばしの別れだ」  名を呼ばれた漆黒の駿馬は、ぶるる、と嘶き、足元の草を食む。二頭の馬と手短に別れを済ませ、オロとグラナードは朝の森を駆け出す。  カルミアは兄の背にしがみつきながら、これからのことを思った。自分が過去に見た予知夢の通りになれば、いずれ兄は戴冠するはずだ。国中が祝福する中、今よりも少し歳を重ね、王としての威厳と自信に満ち溢れた兄が、王冠を戴く姿。あの鮮明な夢は、父と母が亡くなる前日に見たものだった。  この状況は必ず覆る。  だが、一つだけその夢で気にかかる事があった。  その夢の中のどこにも、自分がいないという事だ。  兄がいずれ国を負って立つ時、自分はいない。それが何を意味するのか。  カルミアは、兄の大きく温かな背中で、小さく震えた。
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