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三人はゴツゴツとした岩山を右手に見ながら、レギン山脈の山懐を休むことなく足早に進んでいた。
グラナードが話した遺跡の入り口は何処なのだろうか。カルミアはなるべく兄の負担にならないように背中で大人しくしていたが、視線は忙しく周囲を観察していた。
日が昇り、辺りはすっかり明るくなっていたため、久しぶりに目にする色彩にあふれた景色が眩しい。
右手には岩がむき出しになった山肌があり、左手には鬱蒼と生い茂る林。地面は緑の草で覆われ、木の根元に名も知らない小さな花が色とりどりに咲いていた。木々の間から溢れる日差しが真っ直ぐ地面へと落ち、それだけの景色なのに、何故か胸にこみ上げてくるものがあった。
カルミアが何の色もない冷たい牢に囚われたのは初冬だった。それから季節は移ろい、色彩豊かな春の訪れを、そよぐ風が伝えてくる。
しばらく同じ景色が続いていたが、やがて右手側に続いていた岩山が途切れ、大きな洞穴が現れた。大人の男性二人分ほどの高さと幅があり、一見大きな獣の住処のような洞穴だ。
「着いたぞ」
グラナードはその洞窟の前でカルミアを下ろすと誰ともなく呟いた。オロは素早く辺りを伺い、肩から下げていた荷を岩陰に置く。
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