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洞穴の先は真っ暗で、外からでは中がどうなっているのか全く分からない。カルミアは兄を見上げて、言葉を待った。
兄がカルミアに顔を向け言葉をかけようとした、まさにその時だった。正面の林の奥の方から突如大きな咆哮が上がった。耳をつんざくその音に、三人は思わず身を竦ませる。
「……獣?」
低く呻くような恐ろしい音は長く続いた。林を包む静寂さを破るその音は、人のものにしてはあまりにも野性味を帯びている。
グラナードはカルミアの呟きに、「いや……」と首を振って苦しそうに顔を歪めた。
「あれは人の声だ……。ルスの声に似ている……」
「ルスの……!?」
ルスがあんなに大きな叫び声を上げるということは、何か大変な事態が起こったに違いない。しかも割と近い場所だ。追っ手を食い止めているのか、はたまた近くに危機が迫っていることを知らせるためか。どちらにせよ、逃げ道はほとんどないということだ。
カルミアと全く同じ事を考えながら、グラナードはゆっくり瞳を閉じ、両手の握り拳にぐぐっと力を込める。暫く硬い表情で思案し、やがて目を開けた時、その瞳には強い光が湛えられていた。
「オロ、カルミアを頼む。わたしは声のした方を見てくる」
「殿下……! それは余りにも危険です!」
これまで取り乱した所を見せることのなかったオロだったが、今回ばかりは揺れる気持ちを隠さなかった。
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