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普段見る予知夢とは明らかに違っていた。いつもはそこで起こることを上から見下ろし、全体を見渡すように見る夢だったが、先ほど見た夢は、自分自身の視線でその先にいる男を見ていた。まるで今そこで見てきたかのような。
起き上がり、自分の白い手を見る。
髪の感触と風の匂いまで思い出せるほど、鮮明だった。
夢の出来事を思い返していると、突然ガタンと大きな音がして思考が遮られる。
食事の時間だろうか。そう思い、檻の外を見やると燭台の光が近づいて来るのが分かった。
ガタ、と何度か音がしたのだが、食事係の男の姿は見えない。訝しんでいると、やがて思いもかけない人物が目の前に現れて、思わず大きな声を上げそうになり口を手で覆った。
「カルミア! 無事だったか……!」
「兄上!」
久しぶりにその名を呼ばれ、カルミアの心がぎゅっと締め付けられる。張り詰めた緊張の糸が緩むのを、カルミアは確かに感じていた。
固く閉ざされた扉の前で、兄は片膝をついて閂を外した。もう外へ出る事は叶わないと思っていたため、カルミアの身体は咄嗟には動かなかった。
それを見てとると、兄は自ら檻の中に入ってきて妹の側に寄り、華奢なその身体を立ち上がらせてしっかりと抱きしめる。
「良かった……!」
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