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兄は簡素な平服の上にフード付きのマントを目深に被っていたが、フードから覗く翠色の瞳は温かかった。
しばし再会の抱擁を交わしていると、檻の外に控えていた黒服の二人組が、そっと声をかけてくる。
「殿下……。追っ手が来る前に出発せねば」
兄グラナードはカルミアを片手に抱きながら、緊張感を高め頷いた。
「分かった」
グラナードは長く幽閉され足腰の弱ったカルミアを軽々と抱き上げると、立ち上がった二人の配下に声をかける。
「ルス、オロ、行くぞ」
はっ、と短く返される返事を聴きながら、カルミアは兄の腕の中で感じる温もりと安堵に心震わせ、一筋の涙を落とした。
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