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アドニスの首都ライオにそびえ立つハール城の奥に位置する王家の居室に、美しい兄妹が忍び込んだのは昼餉の後の休息の時間だった。父王と母である正妃は公務で出かけており、その日、王族の住居となっている一帯は静けさに包まれていた。
「兄上、こっちよ」
色素の薄い亜麻色の癖毛を揺らす愛らしい妹が、居室の扉を閉めて慎重に鍵をかけていた兄を呼ぶ。
「カルミア、今いくよ」
妹に呼ばれた兄は、見事に輝く黄金の髪をもつこの国の王太子で、名をグラナードといった。
アドニスの現王は正妃と何人かの愛妾がいたが、子供はこの二人だけであり、聡明で健康な王太子グラナードの存在は、この国の希望でもあった。
「夢の通りなら、奥の寝室の脇にある本棚が扉なの」
カルミアは爽やかな水色のドレスを品良くつまみ、小走りで部屋の奥へ向かう。その後に続くグラナードは、久しぶりの探検に心踊る気持ちが抑えられなかった。
アドニスでは十五歳で成人の儀を行う。成人の儀を終えると、王太子であっても国の軍に入隊する事になる。そうなれば、こうやって自由に過ごせる時間はぐっと減ることになるだろう。グラナードは幼い頃から二つ歳下の妹のカルミアと非常に仲が良く、こうやって王宮の至る所を探検した事を思い出していた。
寝室脇の本棚をくまなく探している妹のカルミアは十三歳になったばかり。どちらかというと父に似た面差しは柔らかく穏やかで、母に似たグラナードとよく似通っているのは翡翠色の瞳の色だけだったが、これからさらに美しく洗練された女性に成長するであろうことは、誰の目にも明らかだった。
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