504人が本棚に入れています
本棚に追加
3
身体が規則正しい揺れに揺られている。
温もりを感じ目を開けると、カルミアは今自分が馬上にいて、兄の逞しい腕の中にいることを思い出した。
「兄上……。私眠っていたのですね。ごめんなさい」
兄は片手でカルミアを支えながら、もう片方の手で手綱を取っていた。自分を抱えながら馬を駆るのは大変だったろうと思い、カルミアは掠れた声で謝罪し、目を伏せる。
「何を謝る必要がある。お前は何ヶ月も幽閉されていたんだ。そんなに痩せ細って……。もっと寝ていたって良かったんだぞ」
グラナードは懐から水の入った筒を取り出すと、カルミアに手渡した。震える手で筒を受け取り、カルミアはゆっくりと渇ききった喉を潤す。
「私たち、どこへ向かっているのですか?」
星空の瞬く闇の中、人気のない林の中をグラナードとカルミア、従者のルスとオロが、それぞれ馬に乗りながら闇を縫うように進んでいた。カルミアはどうしようもない不安に駆られ、まつげを震わせて夜空を見上げる。ただ、背中から感じる兄の温かさが救いだった。
「カルミアが脱出したことは、じきに相手へ伝わるだろう。わたしも追っ手に追われている身。今は、王家の隠れ家に向かっている」
「相手……?」
「カルミア。父上を殺しお前を幽閉したのは、叔父のカーネラだ。わたしが海軍の視察に出ている隙を突かれてしまった」
「叔父さまが……!?」
カルミアは兄が告げる事実に驚きを隠せなかった。父と王弟であるカーネラは、これまで対立などしたことなど一度もなく、知りうる限り兄弟の仲は良好に見えた。
「わたしたちが想像するよりも、王宮内は腐っていたようだ……。いずれ、お前にも真実を伝えよう。今はとりあえず、安寧な場所へ急がねば」
兄は強い意志を持って闇の先を見つめ、片手でカルミアをしっかりと支えた。
最初のコメントを投稿しよう!