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闇に覆われた林の中をどう進んでいるのかカルミアには分からなかった。オロと呼ばれる小柄な方の従者が前方を進み、ガッチリとした体格のルスは、兄の後方で辺りを警戒しながら付いてきている。グラナードの様子から、二人が兄にとっての数少ない味方であることが分かった。
一行は無言で進み続けた。緊張の糸がピリピリと張られるのが目に見えそうなほど、四人は気を張り巡らせて前へと進む。
追っ手はいつ現れてもおかしくない。カルミアは夜通しの強行軍の中、先ほどのように自分だけ寝てしまうことがないように、馬上で姿勢を正していた。
そんな妹の様子を感じ取り、グラナードはごく小さな声でカルミアに耳打ちしてくる。
「大陸の七不思議を覚えているか?」
従者の前とは違う砕けた声色は、昔から兄妹だけの時に使うものだ。カルミアは兄が緊張を和らげてくれようとする優しさを汲み取り、思わず破顔した。
「ええ、囚われていた時、七不思議の事に思いを馳せたこともありました」
それはまだ二人がごく小さい時、大陸の歴史と地理を教える教師が兄妹を飽きさせない為、休憩時間に話して聞かせた物語だった。
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