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「するわけねぇだろめんどくせぇ…」
昼休みに弁当とコーヒーを買おうと財布の中身をチェックしたときのことだった。
数日前の胡散臭いスーツの男に渡された名刺が札と並んで入っているのを見つけてしまった。
雑に放り込んでいたせいか、端は少し折れ曲がっている。
名刺とにらめっこをしていると、トントンと優しく肩を叩かれた。
「あ?」
「ヅキくん、今日は取引先の息子さんが進度とか見に来るから、くれぐれも無礼のないようにしてくれよ?」
「無礼」という単語を強調して、わざわざ嫌みらしく言ってきたのは、社長の 福井 優斗(ふくい ゆうと) だった。
その言い方が冗談のつもりなのは、福井さんの人柄からよくわかる。
福井さんは俺より8つ歳上で、俺がここで働くようになった頃は今の俺ぐらいの歳なのに社長として仕事をこなしていた。
「わかったっすけど…その呼び方やめてほしいって言ったんすけど俺!」
「そーだったけか?」
福井さんはガハハと豪快に笑って俺の頭をポンポンと叩いた。
優しく撫でるように叩いてきたその手は、大きくてしっかりとしている。
「皆が真似するんすよ…後輩にもヅキ先輩って呼ばれてるんすよ~?」
唇を少し尖らせわざとらしく拗ねたふりをすると、福井さんが俺の顔を覗いてきた。
そしてニヤリと笑って俺の鼻を人差し指でツンツンとつついてきた。
「ヅキって呼び方可愛くて似合ってる。」
俺よりもずいぶんと低い声はとてもかっこよくて、男の俺でもドキリとした。
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