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「ヅキ…じゃなくて結城くんちょっと来て。」
「あー…うす。」
福井さんの隣に走って行くと、男はにこりと笑う。
「結城さん、よろしくお願いします。」
「あ、はい…。」
スッと差し出された手を握り返すと少し強い力でまたぎゅっと握り返された。
妙に力をいれてくる男を睨もうと顔をあげると、男の口元はキュッとあがり、サングラスの奥の目は笑っていた。
絶対にわざとだろ。
そう言いたくなるのをグッと押さえる。
「彼がここでは俺の次に偉い人間なので、 仕事の内容について気になる点があれば彼に…」
「えっ…きいてな…んがっ。」
最後まで言おうとした俺の口を福井さんが手で覆った。
そっと耳元で囁くように注意を受ける。
「いいから。決まったことなの。」
「いやでも、別の奴じゃなかったっすか…?」
御曹司の男に聞こえぬように福井さんの真似をして小声で返す。
「しょうがないだろ。指名されたんだよ。」
「は、え…指名って?」
聞き返す俺の肩を男が叩いた。
「そろそろいいですか。」
「あ、はい、すみません!」
男にこたえたのは俺ではなく福井さんだ。
男は福井さんににこりと笑いかけてから、俺の方を見て名刺を差し出した。
「紹介遅れてすみません。葉山尚(はやま なお)です。」
名刺を受け取りさっと目を通すと、見たことあるような気がして、男の顔と交互に何度か見返した。
葉山尚という名前も聞いたこと、というより見たことがある気がした。
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