第1章 大橋 敬太

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「小さいわね……小指の骨かしら?」 いぶかしげにつまんで取った小さなそれを、 「な゛?」 ――バリッ! ボリッ!! 躊躇なく、口の中に入れて噛み砕く。 「何やってるんだ!!」 即座に、担当の職員と警備員が君江を取り押さえた。 「は゛な゛せ゛ぇ!」 激しく抵抗し、テーブルと椅子が乱舞する。 俺は新八を守り、腕で抱きかかえた。 「夫とまたひとつになりたいの! 返して、返して……」 目を血走らせ、まさに鬼の形相。あまりの変貌ぶりに、恐怖でしばし立ちすくむ。 「大橋君! 面会は終わりだ! 今すぐ下に降りなさい」 「……は」 「早く!!」 「はい!」 言われるがまま逃げるように談話室を出たが、 「待てぇ゛―! 返せ゛―!」 フロアの隅まで君江の唸り声が響き渡っていた。 無我夢中で病院を飛び出した俺を、車から降りた宇治木が緊迫した表情で出迎える。 「ど、どうした!?」 「ハァ、ハァ――」 頭から離れない。君江の本性が。 この取り乱した心を真似ているのか、はたまた嘲笑っているのか、辺りを囲む木々は前後に激しく揺れていた。 「…………」 いいや。もしかしたら、“こちらへ来い”と手招きしているのかもしれない。 「ぁ!」 ともすれば、フッと甦る記憶。 「お、おい! 敬太君!」 俺は森に向かって走りだす。 「急にどうしたんだよ?」 「思い出したんです、新八さんの最期の言葉を!」 あの山小屋に何かある。唐突に、無性に、確かめたくなった。  
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