72人が本棚に入れています
本棚に追加
『返してよ゛!!』
死に物狂いで取り返そうとしたが、向こうはどんどん仲間が増えて、投げ回しがはじまった。
『大事な物なの! や゛めてっ!』
『うぉーい! 珍しくマジじゃん』
『ほら、書いてあるぞ。ガンバレー!』
『『ガンバレー』』
『『ハハハハハハッ……』』
何度も机の角に腰を強打して、それでもめいっぱい手を伸ばす。
骨がいくら折れたって構わない。みんなからゲラゲラ笑われるのだってどうでもいい。
絶対に、絶対に取り返したかった。
『だったら追いついてみろよ! デーブ!』
あいつは廊下に出て、中央階段に向かう。
もちろんすぐに追いかけた。すぐ横で舌をだす取り巻きの男子に目もくれず、とにかく必死で。
やがて、うすら笑いを浮かべながら屋上に出た。
ゼエゼエと切れる息の合間に、切実な願いをぶつける。
『ン゛ッ、返して……な゛、何でもするから゛! 本当にハァハァ゛、大事な物な゛の゛!』
すると、ニヤリと笑って言う。
『お前にしてほしいことなんかねぇよ! ばーかッ!』
『ィャ……』
手から筆箱が離れ、そらと空が重なる静止画。
スローモーションで舞うペンや消しゴムに手を差し伸べても、遥か奈落の底に落ちてゆく。
『イ゛ヤ!』
すぐに遠くで聴こえた。カシャンッという絶望の音色が。
『ヤだ……イヤだヤだ』
私は階段を駆け下りて、唯一の支えを助けに行く。
でも……。
『…………』
バラバラになっていた。
『っ……』
骨がいくら折れたって構わない。だけど、心が折れたら立っていられない。
『ごめん……そら、ごめんッ゛……』
散らばった思い出をかき集めていたら、
『筆箱ぐらいで泣くなよー。買ってやろうかー?』
『『ギャハハハハッ』』
と、屋上で笑うあいつら。
許せない。
そんな感情も湧かないくらい、私の心は途方に暮れていた。
最初のコメントを投稿しよう!